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SAD治療-最前線情報-

薬物療法

疾患の理解や治療の方法は日進月歩です。

ここでは、最近の研究や論文から得られた社会不安障害(SAD)に対する知見を、専門家の注釈を交えながら分かりやすくご紹介します。 情報は随時更新していきますので、定期的にのぞいてみてください。

 

般性SADタイプは摂食障害の併発にも注意!

SADの代表的な症状のひとつに、スピーチ恐怖があります。
しかし最近、スピーチ以外の場面、特に人間関係などに対して不安や緊張を感じるSADが増えてきている、という報告があります。
つまり、特定場面に対する不安緊張だけでなく、様々な生活場面全般に不安や緊張を感じる「全般性SADタイプ」が増加している、というのです。
この「全般性SADタイプ」は、治療せずに放置すると色々なメンタルトラブルを招き易いとされています。
うつ病やパニック障害、アルコール依存症が、SADに併存しやすいのは有名ですが、 例えば「摂食障害」も陥りやすい疾患のひとつです。
ある研究で、摂食障害がある女性の患者さんにSADが併存しているか検討してみました。
すると、34%の人がSADを併存していました。
また、そのほとんどが「全般性SADタイプ」でした。
調べを進めると、彼らのほとんどは、摂食障害より先にSADを発症していた事もわかりました。
一番怖いのは、自分を傷つけてしまう問題。
種々の研究から、SADが併存する摂食障害では、自傷や自殺未遂の割合が高くなる、という見解が上がっています。
SADは患者自身がそれを性格の問題と捉えてしまい、耐え忍ばれていることが多い病気。
早めに治療すれば、二次的なメンタルトラブルを予防できます。
また、目立った症状の陰に隠れているSADを的確に見つけ出して治療すれば、回復の近道にもなります。
これまで悩んできた方も、最近気になり出した方も、性格の問題と諦めないで、専門医に相談してみましょう

出典
「摂食障害と全般性社交不安障害、治療的観点から」
永田利彦
心身医学,2011,No.7,Vol.51,609-614


ネガティブな反省がSADを悪化させる!!

SADの人が最も不安になる状況のひとつに、人前でのスピーチがあります。

でも、そこには、SADの人特有の“SAD的考え方”があるからって、ご存知でした?
実はSADの人、スピーチの前には、「スピーチが怖い!」と強く感じると同時に、「自分には良くない事ばかり起こる」「上手くいくことが少ない」と、ネガティブな考えを抱きやすくなるんです。
スピーチ中は、ちょっとの失敗をとても否定的にとらえたり、観客の反応などを過剰にネガティブに解釈してしまったりし、スピーチ後は、「失敗したんじゃないか」「緊張していたのがバレて変な人と思われたのでは」とネガティブに繰り返し考えこんでしまいます。
そして、そんなネガティブな反省を繰り返すことで、自分に対してどんどん自信がなくなっていく『負のループ』にはまってしまうのです。
こんなに繰り返しネガティブに考えてしまうなら、スピーチ恐怖になっても仕方ないですよね。
しかし、この傾向こそが、SADの人特有の“SAD的考え方”なんです。

実は最近の研究で、「人から否定的に評価されることを恐れること( 他者からの否定的評価への恐れ) 」と「繰り返しネガティブに考えることネガティブな反芻)」がSADの症状を悪化させていることがわかりました
『え!? 考え方で病気が悪化するの!?』と驚かれる方もいるかもしれません。
でも、ホントです。
人間の“思い込む力”ってすごいんですよ。脳内バランスもデリケートなんです。

あなたは、ネガティブに繰り返し反省をしていませんか?
もしかしたら、知らず知らずのうちに、自分で症状を悪化させてしまっているのかも…。

心当たりのある方、お気を付け下さい!!

出典
「スピーチに関する見積もりが社会不安に与える影響」
城月 健太郎 , 笹川 智子 , 野村 忍
心理学研究 , 2009, 79(6), 490-497


画像でもわかる!? 社会不安障害の人の脳

最近、社会不安障害に対する生物学的研究が注目されています。

たとえば、脳。
PETやMRIの画像などを研究すると、SADの人がスピーチをした時、脳の中の「扁桃体」という部分の血流が増加し、前頭眼窩面や島、側頭極といった脳の部分では血流が低下することがわかりました。
「扁桃体」は、脳の中でも情動反応の処理を司る部位です。
情動反応とは、「ワーッ!!」「キャー!!」「ええーっ!?」など、驚きやショックに代表されるような“比較的短い感情の動き”のこと。
そんな感情を司る場所が活発化するのだから、緊張や硬直、パニックが起こってしまうのも頷けます。

違う研究では、記憶・感情・動機づけなどの働きを担う脳の部位(海馬、島、前帯状回など)の活動がSADの症状と関連していることもわかってきました。
そして、これらの部位の血流の変化を脳画像で追っていくと、SAD症状が生じてから治まるまでの様子が目で見てハッキリわかります。

さらに、SADの人はそうでない人より“嫌な気持ちになる表情”を見ると、脳が過剰反応すること、SADの人はそうでない人より“批判”に対して脳が過剰反応することもわかってきています。
過剰反応するのは「海馬の周り」と「鉤」と「扁桃体」。
とくに「扁桃体」の過剰反応の程度は、SADの重症度と比例しているというのです。

脳画像って、すごいですね。
このことからも、自分の気の持ちようではなく、脳や生理学のレベルでSADの症状が出ていることがわかります。
医学の世界は日進月歩。
今後、さらに社会不安障害の解明が進むと、脳の画像から「この患者さんにはこの治療がいい」なんてこともわかるようになるかもしれませんね。

出典
「社交不安障害の生物学的指標」
實松寛晋・中尾智博
精神科, 2010, 17(2), 117-121


社会不安障害の認知行動療法

SADの治療には、認知行動療法が有効であるとの報告が多数あります。
でも実際、どのように行われるのかご存知ですか?
名古屋市立大学病院で行われている、SADの認知行動療法を少しご紹介しましょう

 

[STEP 1] SADがどのような疾患なのか学びます。
まず、社会不安障害という疾患について、よく学んでもらいます。
SADの人がどのような考え方をしやすいか、どのような行動をとりやすいかといったことも学びます。
そして、これから学習することが疾患のどの部分にどのように有効かをきちんと理解してもらいます。

[STEP 2] 不安をコントロールする技術を学びます。
不安は、自分に注意が向くことで強まります。
そのため、意識的に自分以外の状況に注意を向け直す練習をします。
また、不安を減らすための回避行動(サングラスをかける等)はしない方が周囲からは自然に見えることや、自分が思っているほど他人は自分の気にしていることを気にしていないことを実験によって学びます。
さらに、不安が軽くなるような考え方ができるようになる練習も行います。

[STEP 3] 生活に支障をきたしていた問題を実際に解決していきます。
不安をコントロールする技術をマスターした後に、実際の生活の中で目標を設定します。
そして、できそうなところから少しずつ段階を組んで取り組んでいきます。
また、対人コミュニケーションのとり方に悩んでいる人には、適切な自己主張の仕方も学んでもらいます。
必要であればロールプレイも施行し、実生活でも活用してもらいます。

 

このような認知行動療法の流れは多くの場合、薬物療法を併用して行います
緊張を受け止めて問題に立ち向かっていくことは、強い不安を感じるでしょう。
しかし、医師やスタッフが患者さん一人一人に合わせたペースでサポートしながら行います。
大切なのは、まず、自分自身がSADについてよく知り、自らが主体的に治療に臨む姿勢を持つこと

これを読まれている方は、もう治療の第一歩を踏み出しているのかもしれませんね。

出典
「社会不安障害(SAD)の認知行動療法」
小川 成 古川壽亮
医薬ジャ-ナル 45(8), 96-100, 2009-08


社会不安障害の人はアルコール依存症になりやすい?

社会不安障害の人はその他の人々に比べ、約2倍以上の確率でアルコールの問題を抱えている、と言われています。飲酒はストレスを緩和する作用があるため、緊張場面の多い社会不安障害の人は飲酒が常習化しやすい、というものです。

そこで、社会不安障害の人の何割くらいがアルコールの問題を抱えるのか、という調査をまとめた論文が提出されました。

アメリカでは、社会不安障害の人が「アルコール乱用」という診断を受ける割合10~30%「アルコール依存症」の診断を受ける割合15~25%であるということです。
また、アルコール依存症として治療を受けている方の24.7%に社会不安障害が確認されました。
更に、なんと、その24.7%のうち90.5%の人は、もともと社会不安障害があり後からアルコール依存症になった、ということです。
日本では大規模な調査研究が少ないので何とも言えませんが、この論文の筆者の患者さんを調べたところ、社会不安障害の方の4%(25人に1人)はアルコール依存症を併発していました
ちなみに、一般人口のアルコール依存症発症率は0.9%です(厚生労働省調べ 平成18年度)。
注意しなければならないのは、SADの重症度が中程度の人
症状が軽度で緊張場面にお酒が必要ない人は、社会不安障害が原因でアルコール依存症になることはありません。また、症状が重度で緊張場面を回避している人も、緊張場面に遭遇しないわけですから飲酒する必要はありません。
不安や恐怖を強く感じているのに、お酒によって緊張を紛らわせながら、なんとか緊張場面をこなしている、症状が中程度の方が危険、ということでした。

社会不安障害の人がアルコールに頼ろうとするのは、それだけ不安や恐怖と闘いながら、なんとか日常生活を送ろうとしていることの表れでもあると思います。
しかし、一度アルコール耐性が身体にできてしまうと、それはどんな治療をしても治りません。
そうなる前に、早めに治療を受けることを強くお勧めします。
社会不安障害はアルコール依存症とは違う、「治る」病気なのですから。

出典
「アルコール使用障害と不安障害の併存」
永田 利彦
精神神経学雑誌 111(7), 837-842, 2009


社会不安が強い人は、注意の向け方がちがう!?

人は生まれながら、自分のまわりに「注意」を向けることができる生き物ですが、
社会不安がある人や不安感が強い人は、普通の人と『注意の向け方がちょっと違う』
という研究結果があります。

「注意」には、 自分で“これに注意しなくちゃ” と気をつけたり、意図して注目する時に使う、
『自分で意識してコントロールする注意』と、
大きな音や目立つものなど強い刺激に対して自動的に向かってしまう、
『自分ではコントロールできない注意』の2種類があります。
そこで、社会不安がある人や不安感が強い人がどのように注意をする傾向があるのか、2種類の注意の仕方の実験がなされました。
すると、『自分で意識してコントロールする注意』の仕方については特に特徴がなく、一般的な傾向がみられただけでしたが、
社会不安がある人や不安感が強い人は、強い刺激に自動的に向かってしまう『自分ではコントロールできない注意』が通常よりも強く働いている事が分かりました。

これはどういうことか、というと、
社会不安がある人や不安感が強い人は、無意識にまわりの状況に注意を向け、状況を敏感に察知している、ということ。
危険を早く察知する能力に長けている、ともいうことができます。
反面、“人の怒った表情や、叱責の言葉にも注意が向きやすい”ということでもありますね。
生活の中でも、「あ、あの人怖い」と感じやすかったり、失敗して怒られたりすると普通以上にその事を重く受け止めてしまったり・・・。
『自分ではコントロールできない注意』なので対処のしようもありませんが、
この分野の研究も進めば何か新たな治療法なども登場するかもしれませんね。

出典
「内因性・外因性注意における社会不安の影響」
守谷 順  丹野 義彦
日本パーソナリティ心理学会大会発表論文集 (17), 24-25, 2008-11-15